
大阪市福島区で鍼灸治療院を開業されている奈良修次先生。長年、病院で臨床検査技師の立場から様々な病気を観察してこられました。(奈良先生の詳しい経歴はこちら) 現在は温熱療法と鍼灸治療を組み合わせた独自の「なら式温熱療法」で患者さんの悩みの応えられています。
ガンに対しては主治療の補助として、また患者さん自身がつらいだけでなく、身内の方にとっても苦しみとなる「ガンの疼痛(とうつう)」の緩和、免疫改善という面から「なら式温熱療法」と無痛鍼による「自律神経免疫療法」でサポートされています。
今日はとくに「ガンの痛み」について、お話を伺いました。
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治療院にて 奈良先生(右)と編集長
◆ガンの痛みパターンを知ろう!◆
小澤
ガンの辞典への問い合わせが多いガン患者さんのお悩みの一つが、「ガン性疼痛」と呼ばれるガンによる痛みです。今日は鍼灸師の立場からガンの痛みに取り組んでいる奈良修次先生にお話を伺います。奈良先生、宜しくお願い致します。
奈良先生
こちらこそ宜しくお願い致します。わざわざ大阪まで、ご苦労様です。
小澤
ガンが進行していくと、「痛み」というやっかいな症状が現われるケースが少なくないようです。
奈良先生
確かに末期ガンでは約70%の患者さんが痛みを訴えるようです。ただガン患者さんの痛みの調査では、早期ガンでも30%の患者さんに痛みが起こっていると報告されています。
小澤
早期ガンでも3割とは知りませんでした。痛みは肉体的にも精神的にも患者さんには負担ですね?
奈良先生
病状が進むと、耐え難い痛みになることもあります。患者さんは肉体的痛みのために、精神的にイライラしたり、気力が萎えたりと闘病意欲自体に支障をきたします。また、痛む姿を見守るしかないご家族にとっても、たいへんつらいものです。「痛みだけでもなんとかしてあげてほしい」そう願わざるをえません。
小澤
現代医学での痛みの対処法は鎮痛剤の内服です。日常的な鎮痛剤から、最後はモルヒネになる。痛みの対応手段としては、飲み薬で「痛みを感じなくさせる」方法がほとんどです。なかには抗うつ剤で痛みが和らぐケースもあるようですが、いずれにしてもだんだん痛みが増していくのを、お薬を変更したり足すことでしのいでいきます。
奈良先生
そうですね、結果的に生じている痛みという神経の知覚を、表現は悪いですが、麻痺させる。つまり知覚を鈍らせる対処法ですね。
小澤
もちろん痛みの根本的原因は、ガンという体内にできた腫れもの、悪いおできですから、その不自然な塊が無くなることが最も望ましい。しかしそれが簡単でないとすると、痛みを助長するようなガンに付随する現象をいくらかでも改善できれば、痛みが楽になると思うのですが。
奈良先生
そのためには、ガンによって起こる痛みを整理する必要がありますね。ガン細胞が増えて塊を成し、それが大きくなっていくと人体の正常な組織にとっては“邪魔な塊”です。ガンという塊が管になっている臓器(胃・腸・胆道・尿管・子宮・膀胱など)を塞いだり、肝臓や腎臓、骨などを覆っている被膜や骨膜を伸び広げると痛みを発します。また、ガンが血管や神経を収縮させたり圧迫する刺激や、ガンによる炎症などで痛みがでます。
小澤
ガンの痛みにもいろいろあるのですね。早期の小さいガンでも痛みを伴うのは、ガンの存在する場所の問題ですね。
奈良先生
私たちの体には痛覚受容体という痛みの刺激を感知するセンサーがいたるところにあります。目に見えない体内で異常が起こっていることを痛みで知らせてくれるシステムです。
小澤
それでは、ガンが大きくなるにつれて痛みに悩まされるのは、やっぱり仕方がない・・・?
奈良先生
そう全面的に悲観することはありません。痛みの程度は痛みの根本原因以外の要因で変化します。痛みを増大させる要因、痛みを減少させる要因がわかっています。
【痛みを増大させる要因】
・不安
・悲しみ
・孤独感
・不眠
・社会的地位の喪失
・疲労
・不快感
・抑うつ
・怒り
・倦怠
【痛みを減少させる要因】
・十分な睡眠
・緊張の緩和
・不安の解消
・気分の高揚
・痛みに対する理解
・人との触れ合い(スキンシップ)
・創造的な活動
・他の症状の緩和
小澤
こう見ると精神的な要素がかなり痛みに影響するんですね。
奈良先生
ですから、私も治療の前に患者さんやご家族の精神的な不安と減らすことを心掛けて対応します。このような痛みのパターンを知っておくだけでも、過度に不安になったりや悲観的にならずにすむでしょ。痛みが緩和することは可能だと、少しでも希望を持ってもらう。そういう精神状態になるだけで、痛みが和らぎますから。
(ちなみに、なら愛語堂の「愛語」は「やさしい言葉をかける」という仏教的用語をかねてより大切にしてこられた奈良さんの思い入れを治療院名に付けたそうです)

温熱治療
◆温熱と鍼灸による治療◆
小澤
では肉体に作用する施術として温熱と鍼灸を選ばれた理由はなんですか?
奈良先生
鍼灸は自律神経免疫療法の理論にのっとって施術します。
小澤
安保徹先生と福田稔先生が開発された交感神経・副交感神経と免疫機能の関連を理論的に体系化されたものですね。鍼による刺激でガン患者さんの免疫活性を目指しますね。
奈良先生
私は臨床検査技師として血液検査を専門にしていましたので、あの理論は検査現場の経験からしても合点がいきました。温熱に関しては、臨床検査技師を退職した後に医療機関で治療に使える温熱機器の開発に携わったことが糧になっています。理想的な体内温度に到達することに成功したことで、これは有用だなと思ったのです。
小澤
痛みに対して温熱と鍼灸はどのように有用なのでしょうか?
奈良先生
温熱には「痛みの緩和7効果」というのがあります。疼痛刺激に対する許容範囲を大きくする(疼痛閾値を上げる)、細胞を構成するコラーゲン線維を柔軟にして硬くなった組織に弾性を持たせる、鎮痛作用のある脳内モルヒネと呼ばれるβエンドルフィンの分泌を促す、などです。
小澤
愛知医科大学医学部の伊藤要子准教授が紹介されたHSP(熱ショックタンパク)は、温熱の効果を科学的に解明する手がかりになりました。温熱によって人体にHSPが産生されると、手術・抗ガン剤・放射線との併用の意義、免疫活性、痛みの緩和、食欲や睡眠の改善、うつ気分の改善を促すようです。
奈良先生
鍼灸はゲートコントロール理論の面から痛みの緩和に役立ちます。
【ゲートコントロール理論】
抹消神経で感知された痛みは脊髄神経と介して脳に痛みのメッセージが伝えられる。この際、脊髄に痛みをコントロールするゲート(門)があり、痛みの感覚を脳へ伝えるかどうか調節しているという理論。ゲートが開いていると痛みを強く感じ、ゲートが閉じていると痛みの感覚は弱くなる。ゲートの開閉は、感情や気分など精神的な要因や触圧(さする、鍼灸の触鍼)などに影響されます。不安なストレスでイライラしているとゲートが開かれ痛みを感じるが、心穏やか、気分がよいときはゲートが閉じられ痛みが弱くなる。また、痛いところをやさしくさすると痛みが和らぐのもこのゲートの開閉に関係すると考えられます。
小澤
痛みの知覚には、そんな仕組みがあるのですか。知りませんでした。お医者さんでは教えてくれませんね。
奈良先生
だから家族がやさしい言葉をかけながら痛いところをさすってあげるだけで、患者さんの痛みが和らぐでしょ。
小澤
そういえば、以前、漢方薬をご紹介したことのある大腸ガンがあちこち転移した患者さん・・・現役の40代の医師でしたが・・・の奥様が、痛むご主人の体をさするだけで痛みが楽になった体験をされた。その奥様は看護師でしたが、そのことに触発されて整体の学校に入学されました。
奈良先生
皮膚は外部と接するセンサー部分なので感受性が高くできています。きっと奥様のやさしさ、ぬくもりを感じたのでしょうね。

鍼治療
◆ガンの温熱もやり方しだい!◆
小澤
私は最近ご相談者から、とても悲しい報告を受けました。末期ガンの奥様を遠方の宣伝をバンバンかけている温熱療法施設に連れて行ったところ、全身温熱をされた。そこはドクターとも提携しているのだが、治療後衰弱してしまって帰ってきたら即入院。結局二度と退院できなかった。
奈良先生
あくまで推察ですが、かなり高温での加温を長い時間やってしまったのではないでしょうか。
小澤
体調の悪いとき、熱いお風呂に長く浸かっていれば体力消耗しますよね。
奈良先生
人体にとって温熱療法はたいへんプラスなのですが、もちろん個々の病態や体調によって適したやり方があります。なんでもかんでもマニュアル通りの一辺倒は危険なことも起こります。例えばガンが進行して食が細くなり、体重が減って体力が低下した人が高温の全身加温をしたら、ガンではなく本人が参ってしまう。温熱には高温、中温、低温という分類があり、マイルドな温熱を局所的に行うケースが適している場合もあります。やればやるほどいい、ということは全ての患者さんに当てはまりません。
小澤
他に温熱で気をつけることはありますか?
奈良先生
ラジオ波による温熱は低温火傷にも注意が必要です。ご自宅で温熱を取り入れるなら、温熱療法に詳しい人に相談し、目的に応じた温熱のやり方を正しく指導してもらうほうがいいでしょう。
小澤
適切に使えば、温熱はガン患者さんにもメリットがあるのは間違いなさそうですね。
奈良先生
免疫の数値が改善するデータは出ていますし、温熱療法でガン性疼痛で服薬していたモルヒネが要らなくなった人もいます。いずれにしても、心身両面でQOL(生活の質)の改善や体調回復は望めます。
小澤
痛みの緩和だけでなく主となるガン治療の補完、ガンを克服する体づくりという面からも上手に温熱を利用したいものですね。本日はご協力ありがとうございました。
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